2015/06/23

尾鰭

高いところから転落して、無事だった。このような夢は地面への墜落の寸前で覚めるのが一般的であると思うけれど、何も変わったことはありませんでしたと言わんばかりにその先までも物語が続くことが増えた。いや、物語とは言いにくいかもしれない。ストーリーとしての一つの道筋があまりにもあいまいで、ぼやけているから。

スマートフォンのホームボタンをかちりと言わせても暗いままのディスプレイに、少しだけ腫れた自分のまぶたが映り込んでいる。そうだ、電源を落としていたのだ。勤め先から確実に連絡が来ないであろう、休日の夜はこの未来的な機械を休ませているのだ。これはとてもよく眠れる気がする。ラベンダーアイス色の朝が私の今日に射し込んできた。



爪磨きの粗い面を手首にヒタと押し当てて、それをやさしく横に引くことを考えた。火曜の午前の控えめな外光が、さして白くもない私の手首をぼんやり青く見せて、その下を潜る緑がかった錫色のいく筋かが際立っている。

その昔におばあちゃんは、肌の色が白すぎて採血ができないとお医者様に叱られたと話していた。幼い私は彼女の緑の瞳を見て、血の色も薄そうだなと思っていた。

彼女の存在しない世界で暮らし始めてもうすぐ二年が経つ。問題なく食事をし、家を清潔に保ち、仕事もまあまあ真面目に、私は真面目に正しく生きている。しかし、おおよその事柄が無意味だという主観ははっきりと確信へとそのかたちを顕かにしつつあり、またそれが世間一般では正しくはないということも知っている。



ひっつめた髪を強い潮風に乱されながら、昼顔の咲く砂浜をほっつき歩いた。海はそれほど広くもないような気がした。気がした、気がした、気がした...ずっとそればかりで、何も考えていない。