2015/07/13

僕たちがまだ

 僕たちがまだ両手の指にも満たぬ歳しか生きていなかったころ、ほんの数度しか夏を経験していなかったころ。夏が底抜けに眩しくて、甘い乾草のにおいを肺いっぱいに吸い込むと、反射的に目の奥から涙がにじみ出して、日焼けで傷んだ肩の皮膚がひりつく。日射しに貫かれて自分まで光になったような錯覚に陥るのだ。
 目玉は前にしか付いていないから、その背がどんなに暗い影を背負っているのか、気付くことなどない。