2015/09/24

ぶどうの実

 例えば秋服が必要かもしれないとか、街路樹が夏なんて忘れたという色をしているかもしれないとか、季節はそんな風にいつだって理由になりうるのだった。住み始めて8年になるこの街はいまだに余所の街であって、千度歩いた道も決してお馴染みにはならない。

 その昔に城下町であった県でいちばんの高級住宅街を、やや錆の目立ち始めた自転車でとろとろと走りながら、冷えた木の幹のにおいが混じり始めた風を浴びていた。時間が無限に感ぜられた、いや、時間ばかり有り余って困っていた学生の頃には夜な夜な散歩をしに歩いた町は、ちいっとも変わっていなかった。きっとそれは私がそこを知る前から、生まれる前から、もう数百年そのままなのだろう。そしてこれからも。