2013/02/13

塞ぐ

 怖い夢しか見なくなってしまった。単に眠りから引き揚げられるというよりは、覚醒という、正気でない響きを持たせたその言葉によってからがら逃げのびる朝を繰り返す。もともと夢によって愉快で癒しをもたらされたことは無いに等しかったが、心がどこまでも慄きに満たされてしまうのはつらいことだ。



 あなたは自分の世界に入り込んでしまうから、と、もう何度目かわからぬ説教をされた。私は怖ろしく自己中心的であって、それはとても私の手にも負えぬ性質であった。いっそうひどいのは、あなたに悪気がなく努力をしているのはよくわかる、と添えられることであった。私とて自らを性悪だとは思っていないし、そのように振る舞ったこともないので、そういった印象を持たれていないのは幸いであった。ただ、白痴のようだと思った。

 好きなものを増やしすぎないようにすれば手っ取り早いと思ったので、いま手の内にある全てを永遠にループさせて擦り切れたところに潔く終わりを選ぶことを試みた。ひと月ほどで内側がかすかすに酸化していって、口に含めた砂糖菓子に唾液が染み入ってホロっと崩れるように、脆くなっていた。問いはいつも内側にある――憂いも、衝動も、憧憬も。それらを喪ってしまえば最後、私は私の世界のなかでだけ永遠に立ち竦むことになるのだ。夕暮れに長くのびた影を引きずりながら、いつまでも、いつまでも。



 もうすぐ冬が去り、春が来る。私は毎年三月になると咳を繰り返すあまりに喉を切らしてしまい、梶井よろしく血痰を吐いてしまうのである。好きなだけ床に臥せることの許される学生ではなしに、いっちょう前に仕事を持つ身であるからして、今年はマスクなど装着して歩こうと思っている。



 春になったらクロスバイクを買って、できればパソコンも買い替えて、あとジューサーなんかも欲しい。花か何かを育ててみたりして、多少無理やりにでも暮らしに理由を加えなければいけない。

 日が長くなった。照らされるのはいつだって恥ずかしい。