糸切り歯
ひどく視界の悪い夢だった。大雨のためにただでさえ暗いのに、ちょっと現実では有り得ないくらいに丈高い椿の茂みに挟まれた坂道を、えんじ色の傘を差して私は歩いているのだった。坂の上に住む刺繍の先生のもとへ稽古に行く途中だった。私は茶色のゴム靴を履いているのだけど、その表面がたいへん汚いのは、雨と一緒に油を含んだ泥が流れてくるからだ。とうとうゴム靴はとろろ昆布のようにでろでろとして駄目になってしまったので、それを脱ぎ捨てて裸足で歩き始めた。この世界ではゴムよりも人間の肉と骨のほうが丈夫だということになっていた。とてもとても暗い景色に、椿と傘の赤がよく映えていた。