私は首にロザリオを引っさげたミッションスクールの女生徒で、超高層ビル内にある新聞社のプレス・ルームで卒業式が行われた。インキの瓶が並べられた教卓で卒業証書を受け取る横で、記者は駆けずり回り、怒鳴り、たまにインキの瓶をひっくり返してワイシャツに染みを作っていた。卒業生たちはプレス・ルームのドアから退場するのだけど、ドアの向こうはアルハンブラ宮殿に通じていた。級友たちが「ロマンチック街道?」「アンダルシアでしょ」という会話をしていたけれど、どっちも違う。でもアルハンブラ宮殿はドイツの飛び地にあるという設定になっていた。
卒業証書を持ったままマラソンをすることになったので仕方なく走るのだけど、走るのが速かったので、その足で現実に住んでいるアパートに帰ってしまった。そこへ友人が訪ねてきてゲーム機のコントローラーをくれるのだけど、そしてひとつ冬を越したあたりで私は「引きこもり大賞」を受賞することになった。その知らせを受けた時、私は北極でワカサギ釣りをしながら綺麗なオレンジの飴玉を舐めていた。
みどりの日を意識したわけではないのに、服も鞄も弁当バッグも弁当箱も緑色だった。図書館ではずっと植物図鑑を読んでいて、維管束の美しさだとか葉脈のむず痒さだとかに目を奪われていた。「たべてはいけないくさばな」のページに、私がまだランドセルを背負っていた頃にたびたび甘噛みしていた草があった。40℃近い熱が出て、身体中の筋肉が弛緩して、確か2週間くらい寝込んでいたような気がする。「変なものは食べなかったか」と家族にも医者にも問い詰められたけれど、私は頑なに口を閉ざしていた。毎日手当たり次第に道端の草を食べていたので、心当たりがありすぎたのだった。