2011/09/01

いびつ

9月1日の夢

私には恋人がいた。情熱というには物足りない、穏やかといえば聴こえはいいが。それでも私にとっては完璧な愛であって、うむ、愛。その愛の深さゆえか、私たちは互いの死を交換した。ひとの死にかたは運命によって定められており、死の交換とは相手とその運命をそっくり入れ替えることだった。この契約を結ぶことが出来るのは人生で一度きりで、取り消しも出来ず、さらに怖ろしいことには自殺が出来なくなるという。老衰であれ病死であれ事故死であれ契約を交わした相手の死の運命をまるっと背負わなければならぬし、背負わせなければならぬのだから、自ら命を絶つことは叶わない。それはつまり、自分の運命でその相手を殺すという呪いでもある。
そして指切りげんまんをした2週間後に、彼は列車に飛び込んで死んでしまった。大陸を横切る、出稼ぎ労働者も貨物もいっぱいいっぱいに積まれた長い列車がゆっくりと走ってきたところへ飛び込んであっさり死んでしまったのだという。それが自殺なのか事故なのかはわからなかったし、自殺だとしたらなぜ彼はそのようになったのかという謎もあるけれど、確かなのは私が死ぬはずだったということだけだ。西部劇に出て来そうなだだっ広い大地を縫う線路の上に彼の亡骸を拾うべきかどうか悩んでいたら朝が来てしまった。