2011/09/15

まみず

9月15日の夢

私は海上警備隊の一員として客船内でのパトロールを務めていた。濃紺の制服は糊を薄く塗ったちりめんみたいにザリザリしていてあまり心地よくなかったし、デザインがあまりいけてなかった。それほどランクの高い客船ではなく、船体の白の塗装なんか赤茶の錆がこびり付いて所々剥げていた。客もいまいち所帯染みていて、かっぱえびせんを食べ歩くおじさんがいて行儀がよくないなと思っていた。そんなところへ大波がやって来て、転覆こそしなかったものの波を受けた側の船体の窓ガラスは割れてしまう。塩水でびしょびしょになった船内、ガラスの破片による怪我人の続出により一気に騒然となった。そんななか私はラウンジの隅に箱を見つける。

その箱は1m×2.5mくらい、特殊なサイズのジェラルミンケースのようなつくりをしていて、鈍いカーキのゴムバンドがいくつか巻かれていた。そのゴムバンドを外して、私はその箱の蓋を開けた。鍵はかかっていなかった。中には男が、相当の大男が入っていた。口に貼られたガムテープと手足をまとめたロープから、彼がどうも面倒な目に遭ってこの箱に閉じ込められていたらしいとわかる。先ほどの大波で蓋の隙間から水が入り込んでしまったらしく身体中が濡れていて、しきりにむせていた。私は彼の口のガムテープを剥がしてやり、その大きな身体を起こしてロープを解いた。「ああ助かった!」と彼はほっとした表情で礼を言った。彼の左目のくぼみには青痣があった。

パトロール前に上司から胡散臭い組織の者たちが船に潜り込んでいるらしいから気を付けろと言われていたのを思い出して、彼はおそらく彼らに始末されようとしていたのだろうと思った。棺桶のようなジェラルミンケースに閉じ込められたまま、海に放られるはずだったのだろう。偶然私は彼を助けたが、彼がこのまま船内にいればまた命を狙われるのは明らかだった。私は彼の手を引いて立たせ、上司のもとへ連れて行った。私自身それなりに身長があるほうなので人を見上げるということがなかなかないけれど、あらためて本当に大きい男だな、と感心するほどの大男だった。よくわからないといった顔の彼に有無を言わせず、降りる港をひとつ間違えた南方からの大道芸人ということで迷子として上司に引き継がせた。警備隊の保護下ならいくぶん安全だと思ったのだ。朴訥な見た目に反して聡いらしい彼は私の思惑を察したらしく、他の誰にもわからないように、口の動きだけで「ありがとう」と言った。