2012/02/12

ルッコラ

戦争に巻き込まれていた。革命派だか何だかの勢力が乗り込んでいる船がたくさん浮かんでいる湾で、私は小さな白い漁船の甲板にうつ伏せになって隠れて、無人の船が勝手に流れているふりをしていた。身を隠すために積んだ木箱や布の隙間から外を覗き見ると、薬莢をたすき掛けした屈強そうな男が機関銃を手にうろついている。見回りをしているのだ。 

と、彼と目が合ってしまった。なぜ気付かれてしまったのだろう、顔色を変えて両の目玉がぎりぎり収まるほどのわずかな隙間をしっかりと認めて、彼は銃をジャッキリと構えた。恐怖を感じるより先に私は飛び上がり、そのまま海へとダイブする。衝撃で視界を遮る気泡が肌を滑っていって少しだけくすぐったい。しだいに開けてゆく海の景色のなかに、鈍い灰色の肌をしたサメがいた。私はそのサメの背ビレにしがみ付くと、サメは私を待っていたかのように勢いよく海の底へと向かう。海面を突き破った銃弾が水中で急速に力を失いながら私を追い越して行くのが見え、しまいには頼りなく漂うだけになった。サメの肌は滑り止め加工でもされているかのように、きゅっと手のひらに馴染んでいた。光がほとんど届かないくらいの深みまで沈んでもなお進み続けるサメにしがみ付きながら、耳から空気がごぼごぼ抜けてゆくのを感じていた。