2012/04/15

安寧

いわゆる学級崩壊というやつを起こして教師の側も諦めている、アナキズムでいっぱいの高校の生徒。始業のチャイムが鳴っても騒がしいままの教室では誰ひとり教科書を開かず、教師がやって来ることさえない。文字通りに登校と下校を繰り返すのがここの生徒の毎日であるらしい。ななめ後ろの席に幼なじみがいて、この幼なじみというのがわりあい夢によく登場してくる。家が2キロほど離れていたけれど、田舎なので彼が同級生のなかでいちばんのご近所さんであった。笑っているんだか笑っていないんだかよくわからない表情をしているのがいつも通りで安心した。

私の夢のなかの学校は、いつも日当たりが悪くて薄暗い。 

体育の時間になった。授業には取り組まないくせに教室の移動だけはちゃんとするらしく、生徒たちはジャージに着替えて体育館にぞろぞろ連れ立ってゆく。今日はバレーボールをやるらしい。どうもバレーボール部のエースであるらしい私は大活躍をしていて、体育の授業では現役の部員は加減してプレーするものだけど、私は遠慮なくボールをぶっ叩いていた。取り柄が少ないのでこういった場面が嬉しくて仕方ないのだと思う。このバレーのルールが変わっていて、マスクを目にかぶせて視界を遮った状態でプレーしなければならない。当然ボールはあらぬ方向に跳び、人もあらぬ方向に跳び、転び、倒れる。私はネットを張る鉄柱に頭をぶつけていた。ふつうのバレーよりもずっと汗をかいてマスクを外すと、汗が玉になって布の裏側についていた。 

教室に帰ると、窓際のある席の上に茶封筒が置いてあるのを見つけた。そこに近付くにつれて、どうもその机だけが他よりも鉛のような色を帯びて黒ずんでいるのに気付く。それは鉛筆でいっぱいに埋め尽くされた落書きだった。いじめ。自分の机ではないけれど、封筒を持ち上げて、隠されていたところまでじっくり眺めてしまう。緻密に、ほとんど隙間がないくらいに描き込まれた落書きはむしろ細密画のようだった。私はふと手に取った封筒が気になる。他人宛てのものであることに何らためらいを感じることなく、糊付けされていない口から中身を取り出す。何枚かの薄紙が三つ折りにたたまれていて、あの青く文字が浮かぶ複写式の紙で、「請求書」と上に印字がされているのだった。請求の内容は学校の備品で、それがこの机に置かれているということから、学校がこの机の主の生徒に支払いを押しつけているのだと思った。
何と学校からもいじめられるとは、いったいどんな奴だろう。私はそのひとに会ってみたいと思ったがそれは叶わなかった。現実の世界での音が夢に入り込んできてしまって、意識が覚醒へと向かってしまったから。アパートの向かいの油屋の駐車場にバック駐車するトラックの警告音が、夢のなかの教室に響き渡ったけれども、音の元らしいものが見当たらないので、ああ私にとうとう幻聴が!と焦燥に駆られていた。