初夏の日射しを和らげるたわんだ空間のなかにいた。その透明の膜のむこうに見える白い太陽の輪郭は柔らかくにじんで、膜を透過した光線は束が解けてほうぼうに散らばっている。足元には花が、草が、あらゆるみどりがあった。ここは崖のそばの草原なのだとわかる。
そこは怪獣の胎のなかだった。かつてその草原に果てた巨大な生き物の亡骸が、温室を形作っている。逞しく節くれ立った背骨の連なりを棟木に、そこから弓のように弧を描くいくつものあばら骨がまるくドームをかたどるように伸びている。骨にぴとりと張り付いた膜、いわば温室のガラス窓は、その獣のかつての肉だった。少しずつ肉が水分と養分を失い乾涸びて、しまいには薄い膜だけが残ったのだ。いつしか根付いた草花たちを厳しい寒さから、容赦ない風から、凍えるような雪から守る窓。
死んでなお腹に命を宿すのはどんな気持ちだろう。