2012/06/08

あなたの唇のがさがさを守る会

カルチャースクールだろうか、腹に糸を通されひとつなぎにされた折り鶴や様々な柄の色紙を用いたちぎり絵、書道の作品などが飾られている。細切れの色紙を繋ぎとめている糊の甘辛いにおい、風に煽られて薄く折れ目のついた半紙のほのかな墨のにおい。記憶にいちばん近いのはいつだって嗅覚だった。 
私は青い粘土でマッサージくんを作っていた。へらで形を整え、削ぎ落し、人間の指先では不可能な鋭角を持った手を生み出す。あらかたその身体を造り終えると、与えられていた彫刻刀で顔を刻んでゆく。目、口。私は満足してマッサージくんを彫刻刀の傷だらけの机に置いた。

眼鏡をかけた、シャープな顔立ちの女性が何やら木の枝を差し出している。指名手配犯であった菊池直子であるらしかった。その手に握る木の枝は杉であり、触れてみると驚くほどに柔らかく、ヒノキのようなライトブルーのような甘い芳香が広がった。杉というよりコニファーに近い感触の葉だった。ん、と彼女は私にそれを軽く押し付けるように寄越すので、私はハア、と言いながらそれを受け取っていた。

大地が狂ってしまって、あちこちの地区がごちゃごちゃになってしまってたいそう混乱する。23区で言うなら、足立区が千代田区のあたりに来たり、練馬と世田谷がひっくり返っているような感じだ。更に困ったことには、人びとが暮らす地上だけでなく自然にあるもの、断層であるとか火山のマグマであるとかまでめちゃめちゃになってしまったことだ。夢のなかで目を覚ましたら、アパートの押し入れから水がだらだら流れている。温泉の湧水口に成分がこびり付いているように、ふすまに水の流れたあとが鮮やかに筋を作っている。押し入れに水脈が出来たらしい。私の布団や冬服などが濡れてしまうと困るので、とりあえず洗面器をそっと置いてみたりした。