2012/06/12

クリーム

浅黒い肌に厚めのくちびる、そして少しごわごわとした硬めの髪の毛をした少年は十四歳だという。水色の遮光カーテンで外の光を断った部屋のなかに長らく閉じこもっていた彼は、世間のいうところの引きこもりであった。彼の生活はといえばゲームやインターネットに明け暮れるわけでなく、通っていた学校の教科書を読んでみたり、問題など解いてみたり、たまに菓子をつまみ、そして入浴や排泄や睡眠などを繰り返してゆく。彼の外側にいるふつうの人間の生活が、彼の部屋の内側にすっぽり落とし込まれているだけのことだった。 

彼はマラソン大会に出るので私にペースメーカーとして併走しろという。そして舞台はいきなりマラソン会場のスタート地点である。案外大きな大会であるらしく、交通規制の敷かれた4車線道路の沿道に、警備員を押し返す勢いで人びとが集まっている。警備員が服のボタン、コーンやテープが布地、それらをぐいぐい押しやる人びとの群れははち切れんばかりに生命力溢れる肉体。まだスタートもしていないのに紙吹雪なんか舞っていてたいそう気が早い。白のシャツと紫のトレパンを着用した彼の猫背ぎみの身体は頼りなかった。 

ビル街、海を臨む橋、緑地、ビル街、運動場。どういうわけか私と彼は優勝してしまったのだった。陸上競技場でゴールのテープを切ってもなお私たちは走り続け、また競技場を抜けて、隣にある文化会館へと向かう。これが50階はあろう高層ビルで、地上だけでなく地下にも数十階ぶんのフロアがある。ガラス張りの玄関ホールの吹き抜けで立ち止まると、上から下から、アアアと木霊のような声が響いてくる。そしてターザンのごとくロープにしがみ付いて四方八方飛び回る者が現れるのだった。外国人の誤った忍者のイメージのような、黒装束たちだった。まぬけ面で彼らのようすを眺めていると、「いくよ、あいつらに負けたら駄目なんだ」と彼が私の二の腕を小突く。どうやらここでは宝探しが行われているらしかった。宝が何なのか分からぬまま、私たちは歩きだしていた。