2012/11/18

肉について

まるまると肥えて胸元から臀部にかけて見事ななだらかさを持った大男の夢だった。無地のアイボリー色のTシャツに辛子色の半ズボンを穿いて、脛毛は生えていなくて、若い娘の脚のように張りはなくとも綺麗な脚だと思った。 

私はその男がなかなかに気が弱く心の優しいひとだと知っていながら、どうしてか存外ひどく扱うのだった。やむを得ず3階の窓から飛び降りようとしている人間に向かって「本当に飛び降りるのならこのデブを下に敷け!」などと叫んでいた。それも本人がいる前でのことであるから、あんまりだ。私がひどいのは彼の体型を揶揄したことのみならず、彼の持つ特異な体質までをも愚弄したからであった。彼は他人とのあいだにいくらかの衝撃をもって触れるとその箇所がひき肉となってしまうという、何とも不可思議な身体の持ち主であった。例えば肩がぶつかるとそこから崩れてひき肉がボロボロと散らばる。そしてそのひき肉に触れた者もまた身体じゅうが醜く崩れて、細かい肉の塊になって土に還る。それゆえに人びとは彼をあからさまに邪険にはしないものの、どこかよそよそしい。彼のもとに飛び降りろという私の発言は、彼が人助けすら出来ないことを示していた。 

彼は子犬を10匹ほど飼っていた。ぶちのないダルメシアンのような、白くしなやかな子犬たち。彼らは道を穴だらけにしていったモグラの真似をして、モグラ穴の中を潜ったりかくれんぼをして遊んでいた。そこへダンプカーが通りかかるわけだが、穴のなかに隠れた子犬たちの存在など知らぬ運転手は、モグラ穴の上を砂煙を上げながら走り去ってゆく。いくらか踏み固められてしまったように見えるその道路に慌てて駆け寄り、穴を突き崩してみると、潰れてしまった子犬たちがいた。外傷はなく、膠のような赤い物質に濡れた彼らは胎児のようだった。地面という胎で死んだ子どもたち。あまりのことに、私はあの大男の顔を見ることができなかった。