左手の人差し指と親指の先のささくれが剥けて、しじゅう肉の色が見えている。皮膚と呼ぶには生命感に乏しい、セロファンのようなぺらぺらの薄い膜が私の指先から逃げるように剥がれている。手伝いをしない娘の手だ、と揶揄されたものだったが、ひとり暮らしを始めて家事をこなすのに不自由をしなくなった今でも、私を包むことを投げ棄てて何でもない薄い膜に還ろうとする。
私の手はあまり綺麗でない。
大人になればすらりと伸びた、そして少しばかり節くれだった「おとなの手」を手に入れるものだと思っていたのに、私の手はいつまでも子どもの丸い手だ。背丈に随分と釣り合いのとれない、狭い掌、短い指、小さな爪。おまけに不健康が祟って爪はいくらかぼこぼこと歪んでしまっている。末端が冷えやすいので、手の甲はつねに紫のまだらになっている。私の手はあまり綺麗ではない。だから、あまりいとしいと思えない。
閉じていることが悪いことであるはずがない、と心のなかで唱えていることが増えた。